今から約5万年前までの時間を計る手段として、世界でもっとも広く用いられているのが「放射性炭素(14C)年代測定」です。しかし、残存する14Cの量だけから求めた年代は、必ずしも正確であるとは限らず、正確な年代を得るには測定値を真の値に変換する較正モデルと呼ばれる「換算表」が必要です。
「換算表」は、研究者によってまちまちであってはならず、国際的な合意に基づいて統一されている必要があります。現在、世界で最も広く用いられている較正モデルはIntCal(イントカル)と呼ばれ、1998年に最初に提案されて以来、2004年、2009年、2013年、2020年に更新を繰り返してきました。
IntCalは例えるなら、メートル原器やグリニッジ天文台と同様に、地質学的な時間に定義を与える国際標準の「ものさし」といえます。水月湖年縞のデータは、その突き抜けた品質から2013年版のIntCal(IntCal13)に全面的に採用され、IntCalの歴史の中でも大きなターニングポイントになったと評価されました。
IntCalには一地点のみのデータに過度に依存することを避けるという原則があるため、IntCal13には、水月湖以外のデータも組み合わされています。しかし使用されているデータの数、較正による年代の「決定力」、さらに深海の水や石灰岩などに由来する古い炭素を考慮しなくていいというデータの「純粋さ」のいずれの点でも、IntCal13を構成する要素の中で、水月湖年縞の存在感が圧倒的であることは明白でした。
また2020年8月には、7年ぶりにIntCalが更新されました(IntCal20)。
IntCal20では、中国の葫芦(フールー)洞窟の鍾乳石(石筍)データ約250点が新たに採用されましたが、水月湖からもIntCal13と同様に約500点のデータが引き継がれ、フールー洞窟のデータと双璧をなしています。