ご挨拶

山根一眞氏

福井県年縞博物館 特別館長

山根 一眞 Kazuma Yamane

私たち人類はどのように誕生し、どんな時代を経て今日にいたったのか。そして、これからどんな時代へと向かおうとしているのか。それは、私たちが問い続けてきた永遠のテーマです。

年縞(ねんこう)博物館は、とんでもない「泥」=「年縞」を通じてその永遠のテーマの答を見ていただく、感じていただく、世界初の博物館です。

年縞は、長い時間をかけて湖の底などに積もり積もった泥のシマシマです。年縞博物館がある福井県若狭町の景勝地、三方五湖の一つ、水月湖の底から世界のどこにもない、ありえないほど完璧な7万年分もの年縞が採取されました。その長さは45mもあります。水月湖が「奇跡の湖」と呼ばれるゆえんです。

水月湖の年縞は、1年の欠けもないことから、歴史の年代決定のための国際標準の「ものさし」(IntCal)に採用され、世界の歴史研究 に大きな貢献をしています。その「ものさし」によって、福井県の水月湖は世界の「Lake Suigetsu」として広く知られるようになりました。

「年縞」はまだ新しい言葉ですが、2018年1月に出版された『広辞苑・第7版』に初めて収載されました。多くの学科の教科書で、水月湖の年縞をテーマとするページが増え、生徒たちはいち早く年縞を学んでいます。私も、「中学国語」の教科書に年縞物語を書いています。

福井県は、その「年縞」の現物を公開し、日本人のみならず福井県に来訪される世界中の皆さんに見ていただく場として年縞博物館を設立しました。

年縞博物館では、水月湖の7万年分という年縞が醸し出す時間、歴史を体感していただくために、45mの年縞をまっすぐに並べた「年縞ギャラリー」を設けました。45m、7万年を実感していただいたあと、年縞の世界をご紹介する展示をじっくりと見ていただきたいと願っています。

2018年9月14日


山根一眞プロフィール:ノンフィクション作家。1947年生まれ。16世紀の半ばに越前(福井)堀江家が開発した東京・中野区の出身。獨協大学外国語学部ドイツ語学科卒。40年以上にわたり科学技術分野で取材執筆活動。『メタルカラーの時代』シリーズは24冊を刊行。ブラジルのアマゾン取材調査は20回以上におよぶ。映画化された『小惑星探査機はやぶさの大冒険』のほか『小惑星探査機はやぶさ2の大挑戦』『スーパー望遠鏡「アルマ」の創造者たち』『理化学研究所 100年目の巨大研究機関』などの著書を通じて先端科学技術分野をわかりやすく伝えることを使命としてきた。「水月湖年縞」は少年時代から熱中してきた地質・古生物に通じることから深い関心を抱き、取材執筆を継続。グアテマラのマヤ文明を年縞で解明する科学研究プロジェクトにも参加した。20年以上にわたり福井県文化顧問(現:交流文化顧問)をつとめ「福井が好き」が口癖。「2018福井国体・障スポ」式典総合プロデューサー、理化学研究所名誉相談役、宇宙航空研究開発機構客員、日本生態系協会理事、獨協大学国際環境経済学科非常勤講師。日本文藝家協会会員。